ある特定の音に対して、嫌悪、憎しみ、怒り、逃避などの強い否定的な感情が起こってしまう障害をご存じでしょうか?
この障害のことを「ミソフォニア」といい、脳の、前頭葉、島皮質の機能障害ではないかと考えられているようです。
ミソフォニアの人たちがもっとも嫌悪する音としては
咀嚼音、鼻水をすする音、咳、ゲップ、くしゃみ、あくび、飲み込み、唇鳴らし、歯磨き、呼吸、会話、
道具が重なり合う音、机の上で指を鳴らす音、ボールペンなどのカチカチ音、義歯のカチカチ音、
キーボードを叩く音、歯ぎしり、いびき、鼻歌、徒歩(ひきずり歩き)、反復する音、など
日常の生活音で、
もちろんこれらすべてにミソフォニアの人が反応するわけではありません。
これらの音は、比較的周波数が低く、40から50デシベルで、ミソフォニアの人には耐え難い不快感を与えているようなのです。
これらの音に非常に強い不安や怒りを感じ、それから逃れようとするため
人ごみに行けなくなったり、学校や会社に行けなくなったりしまう、両親と食事ができなくなってしまうなど、社会性の低下につながることもあります。13歳から14歳くらいで発症する例が多いとも書いてありました。
また、感じ方に個人差があるので、嫌悪する音の種類や大きさなどもまちまちで
同じミソフォニアの人でも、反応の仕方が全然違うのだそうです。
研究データなどがまだないのではっきりとは言えないのですが、5人に1人の割合で
特定の人が発する何らかの日常生活の音に不快感・嫌悪感を抱いていると検索したサイトには書いてありました。
ミソフォニアとは最近発見されたばかりで、研究もあまり進んでいないため
世間の認知度が非常に低いのが現状です。
お客様とお話しさせていただいているうちに、苦手な上司や同僚がいて
「その人が一日中不快な音をたてていて、仕事に集中できない。私が精神的におかしくて神経質なのでしょうか?」と
聞かれたことが、様々な方から何度もあって
念のため、過敏症や神経質になりすぎるのを改善する音、
というのを当ててみても反応がないため
「違うと思います。反応してしまう原因はその方の方にあると思います。」等々お答えしていました。
上司の方の行動や反応が発達障害に似ているところがあったので、そのようにもお伝えしました。
気になってしまう音の種類は、やはり、
咀嚼音や飲み物を飲み込むときの音や、鼻をかむ音、ガムを食べる音、引き出しの開閉から
計算機を叩く音、電話を置く音、歩き方などが多く、
その人が一日中何かしらの音を出しているというご意見も多かったです。
この状態が続くとミソフォニアとまではいかなくとも、
ある特定の人が日々繰り返す不快音に強い怒りが沸き、
その人に注意ができない立場だったり、言い出しくい内容なので
ひたすら我慢しているうちに泣きたくなるほどつらくなる
精神状態になります。
お話をお伺いさせていただいているうちに、はっと我に返って
自分も全く同じ体験をしていることに気づいたのでした。
私の古い友人でR氏(仮)という年配の男性がいます。妹夫妻の家族ぐるみの付き合いがある方で
ある専門分野を得意とするため仕事の相談にのっていただいたり、頻繁にではありませんが食事にいったりする間柄でした。
実はその方の咀嚼音が大きく、左利きで箸の持ち方が悪いからか、食器など常にかちゃかちゃと鳴らしたり
コーヒーなどをすすったりする音はずっと不快で気になっていました。
よく見ていると、なぜかフォークやナイフを上下に何度か降らないと口に入れられないという癖があります。
ある時から、食事をしなくても話しているだけで、顎が声を出す度にカクカク音を鳴らしていたり、
歩くときに音がなっていたり、鼻呼吸音がかなり大きくそれも気になるようになりました。
常に口が開いている状態なので、顎の骨格に問題があると思って、それとなく聞いてみたら
いびきと歯ぎしりがうるさいと注意されたことがあると言ったので
カイロプラクティックなどもすすめたのですが
なかなか聞き入れてくれません。
単なる友人の立場なので、思い切って
「咀嚼音や顎の音がかなり不快なのでやめてください」と言ってみたら
「気にしすぎ。神経質すぎる」などとと切り返されてしまい、全くつたわりませんでした(!)
本人には自分の出す音は聞こえないようなのです。
頻繁に会うような間柄ではないので、次にお会いするときには、
すでに私の方がそのことを忘れてしまっていることが多く
でも、その音が歳を重ねるごとにだんだん大きくなるようになり、
ある時から強い嫌悪感と怒りに変わりました。
その怒りを我慢しようと長時間耐えていると手が震えてきたりするほどです。
これはなんだろうと調べてみると、この音がトリガーとなり、前頭葉の怒り・憎しみの感情を刺激してしまうことからくる
「脳の反応」であることがわかりました。
本人の意思とは無関係にノルアドレナリンを出して戦闘モードになってしまうので
なんと自力ではコントロールできなくてどうにもならないのです。
自分が重度のミソフォニアだったら、仕事ができなくなってしまうと心配になり
友人の心療内科の医師に事情を話して調べてもらうことにしました。
結果的には脳波・聴覚その他異常はなく、疾患ではないことがわかり安堵していたら
「問題なのは、その相手の方がアスペルガー症候群の疑いがあり、
そのことがわからずに接していたので、1番わかりやすい例でいうと心理的にDVを受けているのと同じ状態になっていたことだよ。
病院へ行った方がいいのはその人だから」
と言われて、すごく驚きました。
と同時に安堵してぼろぼろ涙が出てしまいました。
悪気があってやっていないことが分かっていたので、怒る私が悪いと、ずっと怒りに対しての罪悪感を感じていたからです。
アスペルガー症候群の特徴の一つとして、想像力の障害があげられます。
パターン化した興味や活動の変化を嫌うという特徴があり
決められた手順やスケジュールに強くこだわり、
新しい人や状況、予想外の事態への臨機応変な対応が苦手である傾向があります。
予測外の事態に直面すると、不安感がおさえきれなくなりパニックを起こすことも。
また、強いこだわりから
例えば掃除をするときなど、始める前に儀式のように何かをしないと気が済まなかったり
全体像をつながりでみることができなかったりします。
知的障害があるわけではなく、表面上のコミュニケーションには問題が生じにくいため、
ただ話しているだけではこれらの障害がわかりにくいことがあります。
もちろん、普通に社会生活をこなせます。
話していたら、合点がいくことが多くすごーく納得しました。
前述のR氏は、比較的高学歴で知名度の高い会社にお勤めされています。ただ、
・物を口に入れるときにフォークやナイフなどある一定の上下運動をさせないと食べられない(儀式的なもの)
・何かを選ぶときに凝視して人の真似をし続ける。
・スマホで音楽が何かの拍子に突然鳴ってしまった時に、パニックになって電源を落とすという行為に結びつかず
ずっと公共の場で鳴らし続けている。
・自分の持っている些細なもので、紐のようなものが切れたとなると
「紐が切れた」と「紐が切れた」とこちらになにかを強要するかのようにしつこく言い、
反応しないでいると独り言をぶつぶつ長時間言い続け、
なかなか気持ちを切り替えることができない。
・話の途中で、会話がかみ合わなくなったので見てみると、ひとりで思い出し笑いをして相手を完全無視する。
または寝入ってしまう。
・雪の日に革靴を履いて出て骨盤骨折の経験あり(会社では革靴を履くのが常識という考えを変えることができない)。
また、以前ある飲食店で食事の時間が少し長引いたので、
次の予定を少しずらすのか聞いたところ、
「こんな店を予約した者が悪い。予定は変更できない。だからこの店は嫌だ。」と突然パニックを起こしぶつぶつ文句を言い始め、
ご自身の予定なのにも関わらず、連絡するなど何か行動をしようとはせずに、的外れなことで独り言を言い続けている。
と、このようなことがだんだんひどくなり
この方が発する咀嚼音やその他の不快な音が「心因的なトラウマ」を作り出し
「脳が勝手にその音に反応し防御しようとする」状況へと変化していったのでした。
また、これらの行動は「無意識の母親への要求」に似た要因があり、男性同士ではやらない可能性が高いのだそうです。
私の場合、このR氏からの音だけにしか反応をしめさないことと、
私がこの方にはいつも自分が「全く理解されない」「話が正確に伝わらない」ような不信感があったことなど
違う原因も多いことからミソフォニアに至っていないと判断されたようですが、
例えばこのケースが、ご家族や会社の隣の席の方など、距離をとることができない相手だった場合
だんだん重篤になっていったのではないのかと思いました。